セミナー Seminar

2016年度セミナー


通常E棟E305室でセミナーは実施します。
アクセスについては素粒子理論のページ(研究室へのアクセス) を参照ください。

  • 伊與田 英輝 氏 (東京大学大学院 工学系研究科)2016年6月20-21日

    非平衡Green関数入門

    量子多体系において相互作用を扱う系統的な方法としてGreen関数とファインマンダイアグラムの手法がある。 この手法ははじめ絶対零度および有限温度の平衡系で定式化されていたが、その後Keldyshによって非平衡系へと拡張された。 実時間をKeldysh経路上の経路時間へと拡張することで系統的な摂動展開が可能になり、 現在でも非平衡量子系の研究ツールの一つとして使われている。

    本セミナーでは、非平衡Green関数(Keldysh Green関数)の導入と、 具体的な計算をいくつか行う。はじめに標準的な絶対零度のグリーン関数の確認をし、 非平衡系でKeldysh経路が必要になる様子を見る。そして非平衡Green関数の行列表示や計算に用いる公式の確認をした後、 トンネル接合や量子ドットをはじめとした伝導電子系における具体的な計算を行う。時間が許せば、経路積分の場合の計算の概略や、 古典系で知られている理論との関係などを紹介したい。


  • 伊與田 英輝 氏 (東京大学大学院 工学系研究科)2016年6月21日

    熱的な量子純粋状態における熱力学第二法則とゆらぎの定理

    近年、熱的な量子純粋状態を用いた統計力学・熱力学の研究が行われている。任意の純粋状態からある定常状態へと緩和することは フォン・ノイマンによって示されており、それに関して非定常な非平衡状態から平衡状態へと緩和に関する熱力学第0法則の研究が 多く行われている。全系のダイナミクスはユニタリであるため、原理的には元の状態に戻るが、再帰時間が非常に長いため、 実効的に不可逆な緩和だとみなせる。本研究では緩和の不可逆性を特徴づける熱力学第2法則に焦点を当てる。

    これまでの研究では、熱力学第二法則を量子多体系のミクロなダイナミクスから示すためにはカノニカル分布が重要な役割を果たしていた。 ミクロなユニタリ時間発展ではフォン・ノイマンエントロピーは時間変化しないが、マクロには不可逆過程ではエントロピーは増加する。 このギャップは、熱浴がカノニカル分布の場合には問題にならないが、これは、カノニカル分布が実効的に時間反転対称性を破っている と考えられるためであり、熱浴が純粋状態の場合には依然としてこのギャップが問題となる。

    本セミナーでは、純粋状態にある熱浴とシステムの合成系を考え、純粋状態の典型性と Lieb-Robinson boundによる局所性の議論によってクラウジウスの不等式型の第2法則とゆらぎの定理を示す[1]。 また、厳密対角化を用いた数値計算による数値チェックの結果を示す。

    [1] E. Iyoda, K. Kaneko, and T. Sagawa, arXiv:1603.07857.


  • 那須 譲治 氏 (東京工業大学理学院)2016年5月20日

    キタエフ模型の熱力学と磁気ダイナミクス

    2006年にA. Kitaevによって導入されたKitaev模型は,固体物理や量子情報などを含む幅広い分野で注目を集めている。 この模型は蜂の巣格子上で定義された量子スピン模型で,厳密に解くことができ,その基底状態は分数化された フェルミ励起を素励起に持つスピン液体である。このスピン液体の性質がどのように高次元/有限温度に拡張されるかは興味深い問題である。 また,この模型は,スピン軌道相互作用の強いイリジウム酸化物に代表される5d電子系において実現されると考えられており, 実験との比較を行うためにも,有限温度の解析が必須となる。

    本研究では,2次元及び3次元Kitaev模型に対して,有限温度の熱力学量と動的磁気応答を計算した。 この模型はJordan-Wigner変換により相互作用のないマヨラナフェルミオン系とそれと結合する局所Z2変数という形に書き換えることができる。 フェルミオン系を厳密対角化し,局所Z2変数の配置をモンテカルロ法によって更新することで,有限温度のシミュレーションを およそ1000サイトまでのサイズで行った。その結果,比熱に2つのピーク構造を見出した[1,2]。 この2つのピークのそれぞれでエントロピーが半分ずつ解放される。これは,量子スピン液体の特徴であるスピンの分数化を反映したものである。 3次元系では特に,低温の比熱のピークで相転移を示す。これは高温の常磁性から低温の量子スピン液体へのスピン系の"気液転移"と見なせる。 さらに,2次元系において,ラマンスペクトルの温度依存性を計算し,実験結果とよい一致を示すことを見出した[3]。この結果は, 現実の物質においても分数励起が存在する直接的な証拠となる。

    [1] J. Nasu, M. Udagawa, and Y. Motome: Phys. Rev. Lett. 113, 197205 (2014).

    [2] J. Nasu, M. Udagawa, and Y. Motome: Phys. Rev. B 92, 115122 (2015).

    [3] J. Nasu, J. Knolle, D. L. Kovrizhin, Y. Motome, R. Moessner: arXiv:1602.05277.