セミナー Seminar

2017年度セミナー


通常E棟E305室でセミナーは実施します。
アクセスについては素粒子理論のページ(研究室へのアクセス) を参照ください。

  • 石塚 大晃 氏 (東京大学 物理工学専攻) 2017年7月12日 15:00から

    空間反転対称性の破れた系における局所励起による光電流

     輸送現象におけるBerry位相効果や関連したトポロジカルな電子状態の研究は,これまで断熱過程や線形応答理論で記述される平衡状態に近い状況に焦点が当てられてきた.一方で近年,バンド間遷移が本質的な役割を果たす光起電効果にもこうした概念が見られる可能性が指摘されている[1,2].しかし,実験的に従来の機構による光電流との区別する方法が知られていないこともあり,十分な理解がなされていない. 本研究では,光を結晶の一部のみに当てる局所励起によって異なる機構による光電流を区別できる可能性について検証した.

     本研究では,異常光起電効果の局所励起に対する応答の性質を研究する為,Rice-Mele模型における光電流の生成を理論的に解析した[3]. 定常状態における光電流の振る舞いをより正確に解析する為,時間的に周期的に駆動された系を電子の非平衡分布まで含めて正確に扱うことのできるFloquet理論に基づいた非平衡Green関数法を用いた.また,最大1200サイトまでの比較的大きなサイズの数値計算を行うことで輸送現象を研究する際にしばしば問題になる有限サイズ効果についても対応した.その結果,この系の光電流は光の照射位置にほとんど依存しないことを発見した.これは,デバイスの両端で光起電効果が強く生じると期待される従来の機構とは異なる振る舞いである. その為,この性質は実験的に光起電効果の起源を特定する方法となる可能性がある.このほか光の周波数依存性などについても検証した.

     講演では,異常光電流のBerry位相に基づいた理論について基本的な部分から解説する予定である. また,時間が許せば,空間反転対称性の破れたゼロギャップ半導体の一種であるワイル半金属に特有のBerry位相の時間変化を起源とする新奇な光起電効果についても解説する[4,5].

    [1] W. Kraut and R. von Blatz, Phys. Rev. B 19, 1548 (1979); ibid. 23, 5590 (1981).

    [2] J. E. Sipe and A. I. Shkrebtii, Phys. Rev. B 61, 5337 (2000).

    [3] H. Ishizuka and N. Nagaosa, New J. Phys. 19, 033015 (2017).

    [4] H. Ishizuka et al., Phys. Rev. Lett. 117, 216601 (2016).

    [5] H. Ishizuka et al., accepted for publication in Phys. Rev. B (2017).


    • 藤 陽平 氏 (理化学研究所) 2017年7月3日 15:00から

      カゴメ反強磁性体と関連するボゾン模型におけるトポロジカル相

       三角形が各頂点を共有して作るカゴメ格子上の反強磁性体は、スピン間のフラストレーションのために、 基底状態においても磁気秩序の起こらないスピン液体の有力候補として、理論的・実験的に精力的に調べられている。 しかし、強い相互作用が本質的となるために、理論的にスピン液体の性質を調べる方法は非常に限られる。 我々はスピン液体状態を微視的に導出する方法として、格子ゲージ理論による方法を提案する。 Ising極限において、カゴメ格子上のスピン模型はゲージ場と結合したボゾンの模型として定式化され、 ゲージ場に対する平均場解のもとでボゾン模型の基底状態を求め、 そこにゲージ場の揺らぎを取り戻すことで目的のスピン液体が得られると期待される。

       本講演では、強く相互作用する量子多体系におけるトポロジカル相や、対称性の破れに基づくLandau理論に「従わない」量子相転移、それらに現れる分数化された励起など、スピン液体の性質を理解する上で基礎となる概念を始めに解説する。 これらの知識をもとに、カゴメ格子反強磁性体のスピン液体が、対称性に保護されたトポロジカル相あるいはトポロジカル相間の相転移に対応した臨界理論にゲージ場の揺らぎを取り戻す、「ゲージ化」によって理解できることを説明する。


      • 松尾 衛 氏(東北大学材料科学高等研究所) 2017年5月31日 15:00から

        巨視的回転によって誘起されるスピンダイナミクス 〜 一般座標変換不変性から導かれるスピントロニクス現象 〜

         近年の微細加工技術の進展に伴い、固体中に作り込まれたナノ構造によってスピンダイナミクスの制御が可能となり、 物質中の様々な角運動量とスピン角運動量の相互変換機構が精力的に研究されるようになった。 これまでに電磁場の運ぶ角運動量、電子の軌道運動に伴う角運動量、磁性体の磁気ダイナミクスに伴う 磁気的角運動量と電子スピンとの相互変換が実現されてきたが、 ここでは特に巨視的回転運動に伴う力学的角運動量と電子スピンの相互変換機構について紹介する[1]。

         回転運動する物質は非慣性系であり、その物質中の電子スピンのダイナミクスを知るには、 非慣性系のスピンに働く慣性力を知る必要がある。非慣性系の基礎理論には一般座標変換不変性が要請され、 スピノール場の一種である電子の基礎方程式にはスピン接続と呼ばれる幾何学量が現れる。 このスピン接続こそがスピンに働く慣性力を表しており、巨視的回転運動に伴う力学的角運動量と電子スピンとの相互変換を引き起こすことを示す。 特に巨視的回転運動の具体例として剛体回転運動[2,3,4,5]、弾性変形運動[6]、流体運動[7]を対象に、 スピン接続が引き起こすスピンダイナミクスを理論と実験の両面から解説する。

        [1] M. Matsuo et al., J. Phys. Soc. Jan. 86, 011011 (2017).

        [2] M. Matsuo et al., Phys. Rev. Lett. 106, 076601 (2011).

        [3] H. Chudo et al., Appl. Phys. Expr. 7, 063004 (2014).

        [4] M. Ono et al., Phys. Rev. B92, 174424 (2015).

        [5] Y. Ogata et al., Appl. Phys. Lett. 110, 072409 (2017).

        [6] M. Matsuo et al., Phys. Rev. B87, 180402(R) (2013).

        [7] R. Takahashi et al., Nature Physics 12, 52 (2016).


      • 大沼 悠一 氏 (日本原子力研究開発機構) 2017年5月10日 15:00から

        熱・スピン流相互変換

         電子の持つスピン自由度の流れであるスピン流は、電流を伴わない情報伝達及びデバイスを実現可能にし得ることから注目を集めている。 中でもスピンゼーベック効果[1]は、電流を流さない絶縁体であってもスピン流を介して熱電発電が起こる現象で、 ジュール熱によるエネルギー損失を抑制した新しい熱スピン流素子の候補として注目を集めている。 金属と強磁性絶縁体の接合系に温度勾配を印加すると、金属内にスピン流が注入される。注入スピン流は金属中のスピン軌道相互作用を通して 起電力に変換される。

         スピンゼーベック効果に対して、その逆効果にあたるスピンペルチェ効果、すなわちスピン流による発熱・吸熱現象が近年報告された[2, 3]。 金属と強磁性絶縁体の接合系において金属に電流を流すと、金属中のスピン軌道相互作用を通してスピン流が発生し、 接合界面を通してスピン流が注入される。この時、界面近傍における金属と強磁性絶縁体それぞれにおいて、 発熱と吸熱が同時に検出された[3]。

         熱スピン流素子の原理を確立するために、熱・スピン流相互変換現象の機構を解明する必要がある。 本セミナーでは、スピンゼーベック効果とスピンペルチェ効果の機構を、 非平衡グリーン関数法を用いた微視的理論に基づいて説明する[4-7]。特に、スピンゼーベック効果とスピンペルチェ効果の間に成り立つ オンサーガーの相反関係を示し[7]、我々の微視的理論によって、熱・スピン相互変換現象が統一的に記述されることを指摘する。

        [1] K. Uchida, et al., Nat. Mater. 9, 894 (2010).

        [2] J. Flipse, et al., Phys. Rev. Lett., 113, 027601 (2014).

        [3] S. Daimon, et al., Nat. Commun. 7, 13754 (2016).

        [4] H. Adachi, et al., Phys. Rev. B, 83, 094410 (2011).

        [5] Y. Ohnuma, et al., Phys. Rev. B, 87, 014423 (2013).

        [6] S. Geprägs, et al., Nat. Commun. 7, 10452 (2016).

        [7] Y. Ohnuma, M. Matsuo and S. Maekawa (in preparation).


      • 苅宿 俊風 氏 (MANA, NIMS) 2017年4月12日 15:00から

        マクロな系のトポロジカル現象

         トポロジカルに非自明な系の代表例はチャーン数をトポロジカル数として持つ量子ホール系である. しかし,トポロジカルに保護されたエッジ状態の出現などトポロジカル現象の本質に迫るには, 系は必ずしもミクロな量子系である必要はない.実際,マクスウェル方程式に支配されるフォトニック結晶などにおいても トポロジカルに非自明な状態が実現されることが知られている[1]. ごく最近では,ニュートン力学に支配される系におけるトポロジカル現象の実現例も知られるようになってきている[2].

         本研究では,力学系でトポロジカルに非自明な状態を実現する最も簡単なモデルである蜂の 巣格子上の質点・バネ模型(メカニカルグラフェン)の解析結果について解説する[3]. トポロジカルな観点で鍵となるのは振動スペクトルに現れる線形分散(ディラックコーン)である. 興味深いことに,メカニカルグラフェンにおいては,平衡状態のバネの張力を変化させるだけで ブリルアンゾーンの中に現れるディラックコーンの数を変えることができる.さらに系全体を回転座標系にのせることで, 量子ホール系の場合と同様の有限のチャーン数を持つ状態を実現できる.このときチャーン数に応じて 進行方向が固定されるカイラルエッジ状態が出現することも時間発展の計算結果から示される. チャーン数の値はディラックコーンの数と関係しているため,メカニカルグラフェンにおいては簡単な操作により チャーン数の符号を反転させることができ,系全体の回転方向を変えずにエッジ状態の進行方向を切り替えられる. これはまさに,バルクのトポロジカル数がエッジ状態の性質を決める典型例といえる.

        [1] F. D. M. Haldane and S. Raghu, Phys. Rev. Lett. 100, 013904 (2008).

        [2] https://cmt-qo.phys.ethz.ch/research/topomechanics/literature/

        [3] T. Kariyado and Y. Hatsugai, Sci. Rep. 5, 18107 (2015).